| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-091 (Poster presentation)
カワラバッタEusphingonotus japonicusは、植被の少ない裸地環境を選好する礫河原固有種である。礫河原の減少により、現在31都府県のレッドリストに掲載されている。河川の自然攪乱の影響を受けているカワラバッタは、メタ個体群の視点から保全することが適切であると考えられる。本研究は、カワラバッタの移動分散に関する知見の収集、メタ個体群形成の実態の解明を目的として、大規模生息地である静岡県安倍川にて調査を実施した。
標識再捕獲調査は、2025年6~10月のうち計30日、河口から約5.7~19.2kmの範囲で実施した。捕獲時に記録した位置情報を用いて、再捕獲個体の移動距離を算出した。再捕獲数は175匹、移動距離は1.8~2,899mであった。再捕獲個体の50%が46m、95%が300m以内の移動であった。個体群間の交流に関わる個体は一部であること、一方で長距離移動をする潜在的な移動能力が示された。また、移動距離を応答変数、性別、再捕獲までの日数、河口からの距離、移動方向を説明変数としてGLMを構築した。再捕獲までの日数のみ有意な影響が認められたが、効果量は2%と小さく、移動距離には他の要因が影響していると推測された。
遺伝子解析は、上流、中流2カ所、下流、支流2河川の計6地点、計60匹のサンプルについてCOⅠ領域を対象に実施した。15個のハプロタイプが確認され、各地点のハプロタイプ多様度は中~高程度、塩基多様度は低かった。各地点の個体群は、自然攪乱によってボトルネックを経験し、その後急速に拡大した集団であると推測された。AMOVAの結果、集団間の遺伝的分化は有意であり、全遺伝的変異のうち14.2%が集団間の変異と推定された。集団間の遺伝的分化は中程度と示され、緩やかな交流は生じていると推測された。
以上より、安倍川においてカワラバッタは水系全体にメタ個体群を形成していると推測された。水系全体を保全スケールとし、個体群間の連続性が維持される管理が望まれる。