| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-092 (Poster presentation)
遊水地は河川水を一時的に貯留することにより、下流域の水害を防止する造成地である。近年、治水事業の一環として各地で盛んに造成されている。遊水地の内部においては湿地植生が成立する場合があり、治水機能に付随して湿地生態系の保全機能も期待される。
しかしながら、遊水地内における湿地植生の造成直後からの年次変化に関する知見は乏しい。そこで、本研究では造成年の異なる遊水地において、継続的植生調査を実施し、遊水地において年経過および環境要因が湿地植生に与える効果を検証した。
栃木県南東部、利根川水系の遊水地7箇所の遊水地および各遊水地周辺の河川、水路、水田を調査サイトとした。各サイトに調査地点を設定し2023年から2025年にかけて、植生調査を実施した。調査においては車軸藻類および水生維管束植物を対象とし、1×1m枠内の出現種の被度、水深、水温、水質(pH、EC、NO3-濃度)の計測を行った。
群集組成のパターンを可視化するため、Bray–Curtis 指数に基づくNMDSを実施した。そして、各環境変数とNMDS上の軸との相関に基づいてベクトルを算出し、群集構造と環境要因の相関を評価した。また、各サイトの異なる調査年のデータに対してPERMANOVAを用いた群集有意差検定を実施し、年次変化の与える影響を評価した。
NMDSの結果、遊水地ごとに異なる群集組成が認められ、特に水深との強い相関が示された。2022年に造成された遊水地Aでは、水深15 cm以上の地点において群集組成の有意な年次変化は認められなかった。一方、水深15 cm未満の地点では、2023年から2024年にかけて有意な群集組成の変化がみられたが、2024年から2025年にかけては有意な変化は認められなかった。
以上の結果から、遊水地Aでは造成後2年以内の浅水域においてのみ植生が大きく変化したことが示された。この要因として、浅水域では生育可能な種数が多いことや、深水域と比較して光やCO₂などの資源制限が弱いことが影響している可能性が考えられる。