| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-094  (Poster presentation)

自然保護区への指定は野生生物取引を活性化させるか?因果推論を用いた影響評価【A】
Does the Designation of Protected Areas Stimulate Wildlife Trade?: An Impact Evaluation Using Causal Inference【A】

*今川春佳(北海道大学), 岸田隆明(ジュネーヴ大学), 瓜生真也(徳島大学), 久保雄広(国立環境研究所, 北海道大学)
*Haruka IMAGAWA(Hokkaido Univ.), Takaaki KISHIDA(University of Geneva), Shinya URYU(Tokushima Univ.), Takahiro KUBO(Natl. Inst. Environ. Stud., Hokkaido Univ.)

生物多様性の損失を食い止める手段として、自然保護区の拡大が世界規模で進められている。保護区への指定に伴い、区域内での動植物採取など開発行為が規制され、個体群や生息地の保全・回復が図られる。加えて、世界自然遺産への指定は、報道や観光客の増加を通じて、当該地域の生息種の知名度を高める。こうした行動規制や知名度の上昇は、生息種の希少性を高め、野生生物市場での取引を活発化させる波及効果を引き起こす可能性がある。しかし、保護区がもたらす負の波及効果については、まだ十分に解明されていない。
本研究では「保護区への指定が野生生物市場に波及効果をもたらすか」という問いに答えるため、SDIDを用いて、保護区指定が生息するクワガタムシ類の取引量に与える影響を推定した。推定の結果、世界自然遺産への指定による処置効果は+27.68[-2.71, 58.07]、国立公園への指定による処置効果は+2.85[-12.72, 18.42]と推定された。共に取引量を増加させる傾向を示したものの、統計的に有意な影響は確認されなかった。
本結果から、保護区指定による波及効果の存在は明らかにされなかった。本来、採取規制の導入や監視体制の強化により、保護区への指定は取引量の減少をもたらすと期待される。しかし、今回の推定結果では有意な減少傾向が確認されず、点推定値は正の傾向を示した。このことから、保護区は野生生物取引を抑制する効果を持たない可能性が示唆された。今後、生息種への需要が継続して増加した場合、採取行為が緩衝地域に移行し、生息種の近縁種への需要が増加するといった可能性が懸念される。
今後は効果的な保護区管理に向けて、政策に対する市場の反応を即座に捉え、管理政策に反映させることが求められる。そのためには、市場の長期モニタリングシステムを構築し、市場動向に合わせてパトロール人員を配置するなど、監視体制を一層強化していく必要がある。


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