| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-100 (Poster presentation)
近年,国内の草原環境の急速な劣化や減少により,草原に依存する多くの生物が絶滅の危機に晒されている.草原性チョウ類の一種であるミヤマシジミ(Plebejus argyrognomon)は,国内では本州中央部に局所的に分布するが,近年は河川や農耕地周辺などの草原の生息地が急激に縮小しており,絶滅危惧IB類に分類されている.一方,国外ではユーラシア大陸北部を中心に広く分布している.日本と大陸の集団間では生態および形態的な特徴の違いがあり,両者を同種として扱うべきかについては,かねてより分子系統学的研究の必要性が指摘されている.
本研究では,ミヤマシジミの日本集団と大陸集団の分子系統関係と,日本国内における遺伝的集団構造を明らかにすることを目的とした.そこで,日本(121個体),韓国(49個体),ロシア東部(43個体)から収集した計213個体を対象に,dpMIG-seq法によるゲノムワイドSNP解析を実施した.その結果,PCA解析や系統ネットワーク解析では,ミヤマシジミの日本集団と,大陸集団(韓国・ロシア東部),アウトグループとして使用した同属のヒメシジミ(P. argus,日本・韓国・ロシア東部),アサマシジミ(P. subsolanus,日本・ロシア東部)の4つのグループに明瞭に分けられ,日本のミヤマシジミの遺伝的特異性が示された.一方,国内集団を対象としたクラスタリング解析では,静岡,栃木,富山,山梨の各集団がそれぞれ異なるクラスターに分かれたのに対し,長野の集団では複数クラスターの混合が認められた.
以上の結果から,日本と大陸のミヤマシジミは別種レベルで遺伝的に分化していることが判明した.また,日本国内でも地域間で細かな遺伝的集団構造が存在し,長野をソース集団として各地に放散したことや,水系や山脈などの地理的構造により遺伝子流動が制限されていることが示唆された.