| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-107 (Poster presentation)
植食性昆虫では、異なる寄主植物を利用する種内集団間で、遺伝子流動を伴いながらも遺伝的な分化がある例がしばしば見られ、これらは寄主転換に伴う種分化の途上にあると見なされている。クロネハイイロヒメハマキRhopobota naevana(ハマキガ科)は5科に及ぶさまざまな植物を利用することが知られているが、一部の寄主が異なる集団間では、雌の産卵選好性や幼虫の寄主利用能力に分化があることが示唆されている。また、本種に近似する学名未決定の2形態種“アオダモヒメハマキ”および“ミヤマイボタヒメハマキ”は、雄後翅裏面の性標形状によって区別されるが、交尾器形態に明瞭な違いはなく、分類学的な位置づけは未解決である。
本研究では、クロネハイイロヒメハマキにおける寄主植物の違いに対応した遺伝的分化の有無ならびに性標形状の異なる形態種との関係を解明するため、ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子および核DNAのTpi遺伝子のイントロンを用いた解析をおこなった。その結果、モクセイ科、モチノキ科、バラ科、ツツジ科を利用する集団間で、遺伝的分化が認められた。特に、モクセイ科、モチノキ科においては科内の異なる植物種を利用する集団どうしも遺伝的に区別された。以上より、本種は単なる広食者ではなく、特定の寄主植物に適応し遺伝的に分化した多数の種内集団(以下、エコタイプ)で構成されていることが明らかになった。また、一部のエコタイプ間では2遺伝子それぞれに基づき推定された系統関係の不一致およびハプロタイプの共有が認められ、エコタイプ間の遺伝子流動の存在が示唆された。加えて、性標形状の異なる形態種も本種のクレード内に入ったことから,これらも種内集団として解釈すべきことが示唆された。