| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-121 (Poster presentation)
エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)に代表され
る長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)は、高次消費者の成長や繁殖を支える重
要な機能性分子であり、海洋生態系の生産性や物質循環とも密接に関係してい
る。LC-PUFAは主に一次生産者由来と考えられてきたが、近年では無脊椎動物
による脂肪酸の改変や選択的保持が、食物網を通じた供給構造に影響する可能
性が指摘されている。本研究では、陸域起源有機物の寄与が大きく、微細藻類
の直接的寄与が小さいとされるマングローブ生態系において、LC-PUFA供給を
支える生態過程を明らかにすることを目的とした。
沖縄県石垣島名蔵アンパルにおいて、2025年4月から12月にかけて季節変動
を捉えるため2か月間隔で計5回、セストンおよび魚類・無脊椎動物(ハゼ類、
巻貝類、カニ類、二枚貝類)を採取し、脂肪酸組成分析および化合物別炭素安
定同位体分析(CSIA)を行った。セストン中では全調査期間を通じてEPAおよ
びDHAはいずれも検出限界以下であった。一方、消費者ではEPA・DHAが恒常的
に検出され、平均含有率はハゼ類20.2 ± 6.6%、カニ類13.2 ± 3.2%、二枚貝類
9.9 ± 4.1%であった。脂肪酸組成の相関解析では、二枚貝類とセストンの間で
脂肪酸組成に有意な正の相関が認められ、月別にも一貫した関係が確認された
(P < 0.05)。しかし、セストン中ではEPAおよびDHAが検出限界以下であった
ため、これらn-3系LC-PUFAの供給は脂肪酸組成の相関のみでは説明できず、そ
の起源および改変過程を検証する目的でCSIAを実施した。CSIAの結果、共通脂
肪酸のδ 13 Cはセストンと二枚貝類で一致せず、さらにα-リノレン酸(ALA)< EPA
≈ DHAという関係が確認された。以上より、本生態系では無脊椎動物による脂
肪酸改変や底生食物網を介した物質移行が、一次生産者依存型とは異なるLC-
PUFA供給構造を形成する重要な生態過程であることが示唆された。