| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-125 (Poster presentation)
ヒヨドリ科は旧大陸の熱帯・亜熱帯域で多様化し、森林から都市、乾燥地まで幅広い環境に適応してきた。本研究では、ミャンマーにおいて中央乾燥地帯を中心とする環境勾配がヒヨドリ科鳥類の遺伝的構造に与えた影響を検証した。ミャンマーは北部山岳地帯、西部山岳地帯、東部シャン高原、南部モンスーン林、中央乾燥地帯といった多様な環境を有するが、分子系統解析をはじめとした基礎的研究は遅れてきた。本研究では、ヒヨドリ科鳥類5種100個体を対象に、ミトコンドリアDNA(COI領域)および核SNPsを用いた分子系統地理解析を実施した。その結果、シリアカヒヨドリ、コシジロヒヨドリ、コウラウン、エボシヒヨドリにおいて、中央乾燥地帯を挟む東西集団間で明瞭な遺伝的分化がみられ、mtDNAおよび核SNP解析の双方で、おおよそ一致した分化パターンが検出された。また、乾燥地に適応し、中央乾燥地帯に広く分布するイラワジヒヨドリでは中央乾燥地帯内では遺伝的な分化はみられなかったが、Garg et al. (2016)と同様にテナセリム山地を隔て姉妹種と隔離されていることが確認された。中央乾燥地帯は南部の湿潤なモンスーン林や東部のシャン高原に分布する森林性鳥類にとって、分布拡大を妨げる地理的障壁として機能していると考えられる。その結果、この地域を挟んで東西で遺伝的に分化した集団が形成された可能性が高いと考えられた。その一方、乾燥環境にある程度適応できた種にとっては、中央乾燥地帯は東西の分化集団が再接触する移行帯として機能し、遺伝的交流が生じた可能性も示唆された。また、乾燥地に適応した種では、中央乾燥地帯は森林に囲まれた隔離された生息域として独自の遺伝的な分化を引き起こす場となった。すなわち中央乾燥地帯は、森林依存度や乾燥環境への耐性等の生態的特性やそれらを形成してきた環境適応の違いに応じて、分化を促す障壁にも交流をもたらす接点にもなりうる動的な進化の場であると考えられる。