| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-129 (Poster presentation)
海洋では水深に伴って高水圧・低pHにより炭酸カルシウム飽和度が下がり、軟体動物・刺胞動物など多様な分類群において炭酸塩骨格の形成が阻害される。このため特に水深約6,000 m以深の超深海帯では、骨格中に炭酸塩の少ない種が優占する。一方、超深海帯でも強固な炭酸塩骨格を維持する種も知られるが、骨格形成の場となる石灰化母液におけるpH・各種イオン・石灰化速度などの調節機構については未解明であった。
ヒトデ類は最大9,990 mに及ぶ幅広い水深に分布し、発達した高Mg方解石の骨格をもつ。なかでも懸濁物食のハネウデボソヒトデ科と堆積物食のマンプクヒトデ科は水深200 m以深に固有で、超深海帯にも優占する。本研究では、潮下帯から水深6,374 mで得たヒトデ類10種の骨格について微量元素分析とラマンスペクトルの測定を行い、超深海動物における骨格形成機構の水深適応を検証した。
その結果、いずれも超深海帯に分布するFreyella kurilokamchatica(ハネウデボソヒトデ科)とEremicaster vicinus(マンプクヒトデ科)の比較において、前種でより高いホウ素・マグネシウム濃度が認められた。これは、前種がより高pHの石灰化母液で骨格を形成していることを示唆する。また、E. vicinusおよび同属の深海帯種E. crassusでは、ラマンスペクトルν1ピークの半値幅が他の深海性ヒトデ類より有意に低かった。このことから、Eremicaster属においては骨格中のC-O対称伸縮振動がより均一であって結晶性が高いことが示された。これは骨格の形成速度が遅いことを示唆するが、今後、微量元素濃度の寄与を踏まえた検証を行う必要がある。
独立に超深海帯に進出したこれら2系統間の骨格形成機構の違いは、摂餌生態による利用可能なエネルギー量の多寡などに制約されている可能性がある。今後、骨格および軟組織の炭素安定同位体比などの他指標と組み合わせることで、より頑健な議論を行う予定である。