| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-131 (Poster presentation)
ヒトの腸内には約1000種もの微生物が共存しており、栄養代謝や免疫調節などに重要な役割を果たしている。腸内細菌叢の構成は個人差が大きく、食事や体調の変化によっても変動しやすい。このような変化は、生態系に複数の安定な状態が存在しうる『代替安定性』として理解することができる。本研究では、各微生物の増殖パターンが群集の動態に与える影響を明らかにするため、腸内環境を単純化したケモスタット型モデルを用い、2種の細菌が1種の基質を介して競合する最小構成の数理モデルを構築した。特に、近年実験的な知見が蓄積されている、『アリー効果』に着目し、細菌の個体数が少ないときに増殖が抑制される傾向を表現可能とした。具体的には、ケモスタット型モデルに(1)従来の環境収容力を組み込んだ形式と、(2)新規に導入する基質依存増殖の形式の2種類を比較した。まず、単一種の培養実験データに対して両モデルのパラメーター推定を行い、予測性能を評価する指標を用いて比較した。その結果、成長率が基質依存型のモデルの方がより高い適合度を示した。以上より、細菌の増殖抑制は単純な環境制限として表すよりも、個体数に応じて連続的に変化する密度依存過程として表現する方が、より高い再現性を示した。次に、群集の平衡点について安定性解析を行った結果、両モデルともアリー効果の強さに応じて、共存状態、競争排除状態、および複数の安定平衡が同時に存在する双安定状態が現れることが分かった。これは、初期条件の違いによって最終的に異なる群集構造に遷移する可能性を意味しており、腸内細菌叢における代替安定性が表現されていると考えられる。ただし、双安定が出現する条件や安定領域の広がりには、2つのモデル間で定性的な違いが見られた。本研究の結果は、アリー効果をもつ細菌の存在が、腸内細菌叢における代替安定性や多様な群集構造を質的に変化させる可能性を示唆している。