| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-151 (Poster presentation)
感染症は人の健康に多大な影響を及ぼす。中でも真菌の一種である接合菌を原因とするムコール症は、その治療の困難さと致死率の高さから極めて危険な感染症の一つである。症例報告自体は他の感染症に比べ少数であるものの、2021年には新型コロナウイルス感染症の合併症としてインドで多発し大きな社会問題となった。接合菌は枯死葉や死肉を栄養源とする腐生菌であり、本来哺乳類などの体温が高い生物の体内で生息することは難しい。このためがん治療や臓器移植による自己免疫の抑制、もしくは免疫不全患者でない限り発症するリスクはかなり低い。しかし、ヒトと同じ恒温動物である鳥類を介することで、高温耐性を獲得する可能性があるのではないかと考えた。
そこで本研究では、野外の鳥類から分離された接合菌を調査することでこの仮説を検証することを目的とした。具体的には野外の鳥類から分離された接合菌 32株とナショナルバイオリソースプロジェクト(NRBP)に登録されているヒト病原性真菌株の系統関係を調査し、またMucor属8株と Syncephalastrum 属2株の高温耐性を調べることを目標とし、以下の実験を行った。各株のリボソーム領域配列をDNAシーケンスにより同定し、ヒト病原株の配列と合わせて系統樹を作成した。また、サブローデキストロース寒天培地を用いて10,20,30,35,40℃の5温度帯で培養し成長率と育成可否の様子を測定した。
系統樹を作成した結果、 Syncephalastrum 属2株の両方が既知のヒト病原株と単系統を形成した。
また温度耐性試験の結果、Mucor circinelloides のうち一株で、40℃でも生育し高温耐性が確認された。加えて Syncephalastrum 属2株では、既報において生育限界とされた40℃でも旺盛な成長が確認された。
今後は残りの22株について温度別育成試験を行うほか、NRBPに登録されている病原性 Mucor 属および Syncephalastrum 属を用いた比較試験を行いたいと考えている。