| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-161 (Poster presentation)
気候変動による植物の分布変化は、異なる種組成や気候条件をもつバイオーム同士が接する移行帯(エコトーン)で顕著に表れる。暖温帯と冷温帯の境界域に位置するモミ・ツガ林は、さまざまな生活形の樹種が混交する複雑な構造を持ち、気候変動に対して敏感に応答する可能性がある。そこで本研究では、複数地点のモミ・ツガ林において森林動態の年変動と気象条件の関係を明らかにすることを目的とした。
解析には、愛知県の段戸モミ・ツガ希少個体群保護林、面ノ木ブナ林に加え、モニタリングサイト1000のデータから、モミまたはツガが確認された8林分を用いた。なお、データの期間は1998年から2025年である。気象データは、大学研究林もしくはアメダス・気象観測所の観測値を補正して用いた。成長を表す指標として各個体の胸高断面積から相対成長速度(RGR)を算出し、経年でのRGRの変化を調べた。また、非計量多次元尺度構成法(NMDS)を用いて、調査開始年と最終調査年での種組成の変化をプロット間で比較した。
その結果、常緑広葉樹のシキミとアセビ、常緑針葉樹であるモミとツガは、近年にかけてRGRが上昇していた。一方で、アカシデなどの落葉広葉樹ではRGRが減少していた。気象条件は、全調査地で冬季(11月~4月)の気温が有意に上昇する傾向にあった。冬季の温暖化は、休眠中の落葉樹には呼吸消費の増大を招く一方、常緑樹には冬季の光合成能の維持・向上をもたらし、成長に有利に働いたと考えられる。また、NMDSの結果、気温の低いサイトほど種組成の変化が大きいことが分かった。以上の結果から、モミ・ツガ林は今後、落葉広葉樹との混交割合が減少し、常緑広葉樹との混交割合が増大する可能性が示唆された。特にこの傾向は、冷温帯に近い気候条件を持つサイトにおいてより顕著に表れる可能性がある。