| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-171 (Poster presentation)
温暖化に伴い、生物群集では、 過去の気候よりも温暖な気候に適応した種の割合が増加する「好熱化(Thermophilization)」が世界各地で確認されている。また一方で、種組成の変化速度が実際の気温上昇に追いつかないことで生じる「気候負債」が報告されている。気温と種組成のミスマッチは森林の一次生産性を低下させる可能性があるが、これまで検証された例はない。そこで本研究は、日本の天然林を対象に好熱化、気候負債、および一次生産性の変化を算出し、気候変動下における樹木群集の構造と機能を明らかにすることを目的とした。
林野庁が2009~2018年に実施した森林生態系多様性基礎調査より、天然林4,412プロットの毎木データを解析した。まず、種分布モデリングによって各樹種の最頻温度を推定した。この値を用いて各プロットの群集温度を算出し、2期間の差を取ることで好熱化を求めた。気候負債は、各測定年の気温と群集温度との差として算出した。地上部バイオマスの変化を一次生産性の指標とし、気候負債と一次生産性の関係を線形混合モデルにより検証した。
解析の結果、全国的な傾向として、0.005℃/yrの有意な好熱化が確認された。また気候負債は、−0.022℃/yrの速度で拡大していた。好熱化の原因としては、低温適応種の減少よりも、高温適応種の増加が寄与していた。 しかし、温暖化に伴う種組成の変化が十分ではないことで、気候負債が拡大していることが示唆された。また、気候負債が拡大するほど一次生産性が低下することが示された。なお、林分構造(常緑樹割合など)や地域差を考慮しても、気候負債の効果は統計的に有意だった。気温と種組成とのミスマッチが樹木の生理的ストレスを引き起こすことで、生産性の低下を招く可能性が示唆された。本研究は、温暖化が一次生産性に与える影響を評価する際には、生物の分散制限や相互作用を考慮する必要があること、また、 種の特性を考慮した群集レベルでの解析が重要であることを示唆している。