| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-211  (Poster presentation)

なぜシカは食べなくなったのか?キク科植物における被食回避メカニズムの解明【A】
Exploration of Herbivory Avoidance Mechanisms in Asteraceae plants【A】

*清水咲人(名城大学), 宮本留衣(株式会社テンドリル), 小林春香(栃木県林業センター), 奥田圭(広島修道大学)
*Sakuto SHIMIZU(Meijo Univ.), Rui MIYAMOTO(Tendril Inc.), Haruka KOBAYASHI(Tochigi Forestry Centre), Kei OKUDA(Hiroshima Shudo Univ.)

ニホンジカの個体数増加に伴い、植生の衰退や植物相の単純化が各地で問題となっている。シカの植物に対する嗜好性は一定ではなく、地域や時代、植生状況によって変化することが知られているが、嗜好性から不嗜好性への変化がどのような要因によって生じるのかについては十分に解明されていない。
本研究では、栃木県日光市において過去に嗜好性植物として記録され、近年不嗜好性へと変化したキク科3種(ハンゴンソウ、カニコウモリ、マルバダケブキ)を対象に、その変化メカニズムを比較検討した。野外調査では、各個体について草丈、茎の太さ、葉の大きさを計測し、シカによる食害の有無および食害程度を記録した。また、葉を採取して縮合タンニンおよび総フェノール濃度を測定し、成長形質と防御形質の関係を評価した。さらに、野外調査のみでは因果関係の判別が困難であるため、一部の葉を持ち帰り、広島市厳島地域に生息する野生シカ個体群に提示し、採食の有無や反応を記録する採餌実験を行った。
その結果、3種はいずれも現在は不嗜好性植物として扱われているものの、成長形質、防御形質、食害頻度およびシカの反応の関係には、明確な種間差が認められた。ハンゴンソウでは、食害を受けた個体が防御物質への投資を増加させる誘導防御が機能し、集団内で忌避性の高い個体が増加した可能性が示唆された。カニコウモリでは、周囲の嗜好性植物が採食され減少したことにより競争から解放され、防御への資源配分が可能になったことが不嗜好性化につながったと考えられた。一方、マルバダケブキでは防御物質の増加では説明できず、周囲の植生構造の変化に伴う連合感受性の変化が採食圧を左右した可能性が高いと考えられた。以上より、植物の不嗜好性化は単一の防御戦略によって生じるのではなく、食害履歴、資源配分戦略、周囲の植生環境が複合的に作用して成立することが示された。


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