| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-213 (Poster presentation)
マスティングとは多年生植物が年ごとに種子生産量を個体群内で同調的に大きく変動させる現象である.多様な系統群で報告されており,とくにブナ科樹木のマスティングは森林の更新や動物群集との相互作用に関与する重要な生態学的プロセスである.ブナ科樹木のマスティングについて,国内では落葉樹種に関する研究は多い一方,常緑樹種に関する報告は少なく長期データは不足している.アラカシQuercus glauca Thunb.は東アジアの照葉樹林を代表するブナ科の常緑樹である.本種のマスティングのパターンや駆動要因を把握することは生態系管理において重要と考える.そこで本研究ではアラカシのマスティングパターンとその駆動要因を明らかにすることを目的とした.調査は広島県宮島で2018年から2025年にかけて行われた.週1回,調査区約150 m2内の落下堅果を網羅的に採集し,サイズ階級ごとに個数と重量を計測した.その結果,落下パターンは各年で単峰型を示し個体群内で高い同調性を示した.また,年ごとの未熟堅果数と成熟堅果数は正の相関を示していた.この結果は最終的な収量は初期の花の数によって決定されていることを示唆している.さらに,マスティングの駆動要因を特定するために気象データや内部資源量を説明変数,成熟堅果数を目的変数として一般化加法モデルを構築した.説明変数の組み合わせが異なる複数モデル間で比較した結果,結実当年の開花期の風速,内部資源量,結実前年の夏季の気温(T1)と前々年の夏季の気温(T2)の差(T1-T2)が主要な駆動要因として特定された.開花期の風速は負の影響を示し,強風による柱頭の乾燥や物理的損傷が受粉成功率を低下させた可能性がある.また,T1-T2も負の影響を示しており,これは年次間気温差が拡大することで堅果落下数が減少することを意味している.この結果は急激な気候変動が森林の更新や動物群集の個体群動態に負の影響を与える可能性を示唆している.