| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-234 (Poster presentation)
植物の繁殖成功は,柱頭上の花粉量および自殖率に大きく左右される.とくに,送粉を動物に依存する植物においては,送粉の効率や質を規定する送粉者の種構成が重要な要素となる.送粉者相の変化は,花序密度や光環境などの局所環境要因を介して,送粉過程を変化させ,繁殖成功に影響を与える.しかし,送粉者相の変化が,花粉の持ち去り,柱頭付着花粉数,自殖率を介して結実率に至る一連の因果過程として検証された研究は少ない.
都市化傾度には,送粉者の種組成が変化するマクロスケールと,花序密度や光環境といったミクロスケールの変異が存在する.本研究では,この階層構造を利用し,都市化および局所環境が送粉活性を介して植物の繁殖成功に至るプロセスを明らかにすることを目的とした.
対象種には,山地から都市にかけて広く分布する,多年生で雌雄異熟のアキノタムラソウを用いた.調査は,東京・神奈川の都市化率0–100%を網羅する12地点で,開花期から結実期にかけて実施した.花序数および分布面積を記録し花序密度を算出するとともに,全天写真から光環境を定量した.また,各個体の結実率を算出し,資源量の指標として根際直径を測定した.送粉活性は持ち去り花粉数および柱頭付着花粉数で評価した.さらに,各集団の親世代について遺伝解析を行い,近交係数を推定した.
送粉活性は都市化や光環境の影響を受けず,結実率との有意な関係も認められなかった.また,根際直径も結実率に影響を与えなかった.以上より,量的花粉制限および資源制限の証拠は得られなかった.一方で,結実率は都市部の低密度集団において有意に低下した.さらに,近交係数はほぼ全集団で0に近似していた.これらの結果から,都市部の低密度集団では質的花粉制限が生じている可能性が示唆された.現在,自殖率の推定に加え,成熟過程での選択的中絶の可能性について検証を進めている.