| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-256  (Poster presentation)

部分的菌従属栄養性の着生ランは存在するのか:安定同位体分析による検証【A】
Do some epiphytic orchids exhibit partial mycoheterotrophy?: Insights from stable isotope analysis【A】

*藤井健太(神戸大学), 陀安一郎(総合地球環境学研究所), 末次健司(神戸大学)
*Kenta FUJII(Kobe Univ.), Ichiro TAYASU(RIHN), Kenji SUETSUGU(Kobe Univ.)

ラン科は多様な生活様式を持つことで知られ、樹上で生活する着生植物および菌根菌から炭素を獲得する菌従属栄養植物の種数は、いずれも陸上植物中で最も多い。しかし、これまでの研究の多くは地生ランを対象としており、菌従属栄養性を持つ着生ランは確認されていない。そこで本研究では、着生ランにおける部分的菌従属栄養性の有無を評価した。
まず、地生ランと同属の着生ランであるツリシュスラン、ヒナチドリ、フガクスズムシソウを対象に、菌根菌同定と安定同位体分析を行った。着生ランにはCAM植物が多く、菌従属栄養性以外の要因で高い安定同位体比を示すことが、菌従属栄養性の評価を困難にしていた。一方、これら3種はC3植物である可能性が高く、安定同位体比による評価が可能と考えた。菌根菌同定の結果、3種はいずれもリゾクトニア様菌類と優占的に共生していた。同位体分析の結果、ツリシュスランのみが独立栄養植物より有意に高いδ2Hを示し、部分的菌従属栄養性が示唆された。
次に、葉を持たず根で光合成を行う着生ランであるクモランを対象に安定同位体分析を行った。葉の退化は菌従属栄養植物に広くみられる形質であるため、葉を持たない着生ランも部分的菌従属栄養性を持つ可能性があると考えた。クモランはCAM植物であるため、同じくCAM型で葉を持つカヤランを比較対象とした。その結果、クモランはカヤランの葉と比べて高いδ2Hと低いδ18Oを示した。このことから、高いδ2Hは蒸散量の差では説明できず、菌からの炭素獲得を示唆すると考えられた。一方、クモランの根から分離した菌根菌のδ13Cは樹皮よりもクモランに近い値を示し、クモランから菌への炭素移動も示唆された。これらの結果は、クモランが広義の部分的菌従属栄養植物であるC-exchangerである可能性を支持する。
以上のように本研究は、着生植物において初めて部分的菌従属栄養性の存在を示唆し、着生植物における炭素獲得戦略の理解を前進させる結果を得た。


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