| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-258 (Poster presentation)
カエデ属(Acer L.)は、日本では北海道から南西諸島に至るまで列島全域に分布し、低地から高標高帯まで幅広い環境でみられる。日本の樹木の中で特に高い種多様性を示し、多数の固有種を含むとともに、地域によっては優占種として純林を形成することから、日本の森林を構成する重要な分類群である。日本産カエデ属が示す広範な生育環境への適応や高い種多様性をもたらした要因を明らかにすることは、日本の森林の成り立ちを理解する上で重要である。
カエデ属は分裂した葉形や秋季の紅葉が特徴的な分類群であり、日本産種では葉の大きさや切れ込みの深さ、紅葉の色に顕著な種間差が認められる。一般に植物の葉形質は、生育環境と密接に関連すると考えられており、葉形質の違いは種ごとのニッチ分化を反映している可能性がある。そこで本研究では、日本産カエデ属における葉形態および紅葉の色の種間差が、ニッチ分化を介して日本における属内の多種共存に寄与しているかを検証することを目的とした。
本研究では、日本産カエデ属29種を対象とし、葉面積および切れ込みの深さと紅葉の色が気候ニッチと関連しているのかを系統関係を考慮して解析した。系統関係はRADseq法により得られたSNPsを用いて解析し、各種の気候ニッチ推定にはサイエンスミュージアムネットに登録されている標本データとWorldClimの気象データを用いた。葉形態は全29種171個体1223枚の葉を測定し、紅葉の色は文献情報と観察に基づいて決定した。
その結果、種ごとの気候ニッチの平均値については、葉形態および紅葉の色との関連は見られず、これらの形質差がニッチ分化を通じて多種共存に寄与している証拠は得られなかった。一方で、葉の切れ込みの深さと気候ニッチの幅とに関連が見られ、屋久島及び南西諸島固有種は葉の切れ込みが浅く、気候ニッチの幅が狭かった。この結果は、日本産カエデ属において葉の深い切れ込みは、気候に対する広いニッチ幅の獲得に寄与していることを示唆している。