| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-259 (Poster presentation)
<p> 樹木の葉形は種間のみならず種内においても大きく変異し、寒冷環境では鋸歯の増加や裂片化による葉形の複雑化がみられ、温暖環境では全縁率が高まる傾向が報告されている。しかし、広域的な環境勾配に沿って葉形の複雑さを定量化し、種間および種内の両スケールで検証した研究は限られている。そこで本研究では、葉形の複雑さを定量化し、低温環境に適応した植物ほど葉形が複雑になるという仮説を、種間および種内スケールで検証することを目的とした。</p>
<p> 種間比較として、日本全土の4 km格子で実施された森林生態系多様性基礎調査データから広葉樹164種を解析に用いた。種分布モデリングにより、年平均気温に対する応答曲線のピークから最適気温を推定した。葉形は図鑑掲載のスキャン画像(林, 2019)を用い、楕円フーリエ解析により再構築誤差を相対値として評価し、誤差が1%未満に収束する最小調和数を葉形複雑さの指標とした。種内比較として、宮城県、滋賀県、岡山県、宮崎県の4サイトにおいて、コナラ Quercus serrata 成木の成熟葉を標高勾配に沿って採集した。計672個体から1706枚の葉を収集し、標高を温度の代理変数として同様の方法で葉形複雑さを算出した。</p>
<p> 種間比較では、最適気温が低い種ほど葉形が複雑となる傾向が認められた。種内比較でも、いずれの地点においても標高上昇に伴い葉形の複雑さが増加する傾向が確認された。このことは、葉形複雑さが温度勾配に沿って種間および種内の両スケールで一貫して増加することを示唆する。以上より、温度は葉形の複雑さを規定する主要な環境要因であり、その変異は進化的分化と表現型可塑性の双方を反映している可能性がある。</p>
<p> 葉縁の複雑化は、境界層抵抗の低下を介して葉面のガス交換を促進し、低温環境下での光合成効率の維持に寄与する可能性がある。今後は生理機能の統合による、葉形変異の適応的意義の機能的検証が求められる。</p>