| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-261 (Poster presentation)
現在、世界各地でシカ等の大型草食哺乳類の個体数が増加している。日本の森林でも、高密度化したシカによる過採食は、下層植生の消失を通じて土砂流出や森林の部分的な裸地化を招いている。さらに、下層植生消失に伴う土壌浸食が深刻な地域では、上層木の根系が露出し、水分ストレスによる肥大成長の衰退が示唆されている。しかし、シカ食害発生後、根系露出の進行にともない、樹木の成長に関わる葉の生理機能がどのように変化するのかは十分に明らかになっていない。
そこで本研究では、シカ食害履歴の異なるサイト間比較により、根系露出の進行がブナの葉の生理機能および成長特性に及ぼす影響を検証した。調査地には、シカ食害の開始時期が早かった三方サイト(宮崎)、開始時期が遅かった妙見サイト(大阪)、およびシカ食害のない六甲サイト(兵庫)を設定した。各サイトの成熟ブナ6個体を対象に、食害程度の指標として下層環境および根系露出状況を評価し、樹木への影響として葉の形態、光合成および水分生理機能、さらに成長量を比較した。
下層環境や根系露出状況を表す変数の主成分分析では、第1主成分(寄与率50%)により三方・妙見はシカ食害の発生していない六甲と区分され、相対的に高い根系露出程度を示した。一方、葉の生理機能の主成分分析では、第1主成分(寄与率50%)により三方のみが他2サイトと区分され、光合成機能および萎れ耐性の低下が示唆された。また、周辺環境および根系露出が樹木生理機能に及ぼす影響を検討した結果、水ストレスに対する順応指標である葉の浸透圧調節能力のみが有意に変化した。肥大成長量は、三方で食害発生後の数十年間に減少傾向、妙見で短期間の増加傾向、六甲で単調増加を示した。
シカ食害による上層木の葉の生理機能への影響は限定的であるが、下層植生消失と根系露出が進むにつれ順化能力が低下し、個体の成長量を減少させることが示唆された。