| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-266 (Poster presentation)
樹木は光合成によって固定した炭素を葉から根などの各器官まで運ぶ「師部輸送」を行っている。師部輸送の速度は樹種によって異なっており,より効率的な師部輸送を可能にする仕組みや構造が進化の過程で獲得された可能性が考えられる。炭素の輸送経路は管状の細胞によって構成されている。広葉樹の輸送経路を構成する「師管要素」の両端には師板と呼ばれる端壁があり,この形状が師部輸送の効率に大きく影響する。師板はふるいのような形状をしており,師液を通す部分は師域と呼ばれる。師板の形状は大きく分けて2種類あり,ひとつの師板あたり師域がひとつのものが単師板,複数あるものが複合師板である。本研究では,複数樹種について師板を観察し,師板の種類と系統進化に関連があるかを調べた。
対象樹種は5つの科から計25種選択した。特に,クスノキ科とブナ科については科内における系統進化と師板の種類の関係に注目した。樹皮サンプルを採取しグルタルアルデヒドで固定した後,凍結ミクロトームを用いて繊維方向に切削した。切片をアルシアンブルーとサフラニンで染色後,光学顕微鏡で観察し、師板の種類と師域の数を判定した。さらに,Liesche et al. (2017)によるクスノキ科4種,ブナ科5種の師部の情報を加え、進化的考察を行った。
比較的原始的なクスノキ科ではすべての種が単師板を持っており,科内で師板の種類の分岐は見られなかった。 対象種の中で最も進化的に新しいハナミズキで単師板が見られたことから,師板の種類は一方向の進化によって獲得されたものではないと考えられる。ブナ科では,科内で最も原始的なブナ属のみが単師板を持ち,それ以外の種は複合師板を持っていた。よって,科内の最初の節で師板の種類が分化したと推測される。一方,師域の数は系統進化と関連が見られなかったので,師板の形状が連続的に変化しているわけではないと考えられる。