| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-270  (Poster presentation)

宇宙環境に対するヒメツリガネゴケの応答 ―月面土壌での栽培実験―【A】
Response of the moss Physcomitrium patens to Space Environments ―Cultivation Experiments in Lunar regolith simulant―【A】

*安藤愛花(京都工芸繊維大学), 半場祐子(京都工芸繊維大学), 山北絵理(京都工芸繊維大学), 藤田知道(北海道大学)
*Manaka ANDO(Kyoto Institute of Technology), Yuko HANBA(Kyoto Institute of Technology), Eri YAMAKITA(Kyoto Institute of Technology), Tomomichi FUJITA(Hokkaido University)

 人類の宇宙環境での長期滞在において、植物は重要な役割を担う。本研究では植物の宇宙環境ストレスの影響を探るため、現在アルテミス計画が進められている「月」に着目し、肥料を与えない月のレゴリス(天体表面を覆う岩石由来の粒子)の模擬物質でコケ植物の栽培が可能かどうかを検証した。
 コケ植物でモデル植物であるヒメツリガネゴケ(Physcomitrium patens)を、土壌水分状態が乾燥状態と湿潤状態の2条件の月レゴリス模擬物質(LSP-2)とBCD寒天培地に植え継ぎを行い、グロースチャンバーで約90日間栽培し、条件ごとに光合成速度・形態観察・クロロフィル量の測定を行った。
 LSP-2で栽培したヒメツリガネゴケは生育速度が非常に遅かった。LSP-2とBCD寒天培地でのコケの光合成速度に有意差はなかった。しかし、LSP-2での栽培では、生育速度が遅いものの施肥なしで茎葉体にまで成長した。形態計測の結果、細胞の大きさと葉緑体の大きさでは、BCD寒天培地と月レゴリスで有意差がなかった。一方、葉緑体の数はBCD寒天培地で最も多く、葉緑体の密度はBCD寒天培地で有意に高く、月レゴリスでは有意に低いという結果になった。
 LSP-2は酸化ナトリウムと金属物質を多く含むため、ヒメツリガネゴケが塩ストレス、金属ストレス、活性酸素種ストレスを受けた可能性があると考えられる。また、植物の生育に必須な元素である窒素を含んでいないことが、生育速度に影響を与えている可能性がある。
 月レゴリス模擬物質には窒素が含まれていないにもかかわらず、生育速度が遅いながらも茎葉体にまで成長したことは本研究における発見であった。今後の研究では、月レゴリス模擬物質での生育速度を考慮し、栽培時期を6週間として測定を再度行いたいと考えている。また、LSP-2に施肥を行って、生育がどれだけ向上するのかの調査も行いたいと考えている。


日本生態学会