| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-277 (Poster presentation)
維管束植物では,根から吸収した土壌の水分は維管束木部の通水組織で光合
成器官の葉へ輸送される.維管束植物の通水組織は仮道管と道管の2種類があ
り,仮道管では内部に一次細胞壁由来の壁孔壁のある壁孔を通って隣接する仮
道管へ水が移動する.一方道管では,道管要素の両端に一次細胞壁が分解され
空洞になった穿孔板があり,道管要素同士は穿孔板を通してパイプ様に軸方向
へつながるため,仮道管よりも通水効率が高い (Sperry, 2003).系統的に古い裸
子植物やシダ植物の多くは仮道管で通水するが,シダ植物でも道管の獲得が複
数回起きており (Carlquist & Schneider, 2007),道管での通水はシダ植物の成長や
生存にも適応的であることが示唆されている.しかし,シダ植物において網羅
的に道管の有無を同定した研究は少なく,従来の手法では試料作製時の人為的
な壁孔壁の損傷を防ぐことが難しい.またシダ植物における道管獲得の適応的
な意義を探るには,道管の有無による野外での光合成や水利用への寄与を明ら
かにする必要があるが,研究例は少ない.
以上を踏まえ,本研究では,(1) シダ植物の道管の新たな同定法を確立する
こと,(2) 葉の解剖学的形質や生理的形質がシダ植物の光合成速度に与える影
響を評価すること及び,これらの関係に対する道管の有無や生息環境による影
響を明らかにすることを目指した.(1) では凍結割断した試料を電界放出型走
査電子顕微鏡を用いて観察することで壁孔壁の損傷を抑えた同定法を確立した
.(2) では冷温帯 (栃木県日光市) で8種,亜熱帯 (沖縄県国頭村) で6種の葉
の解剖学的,生理学的形質と光合成速度を測定した.道管をもつワラビはシダ
植物内で高い光合成速度と気孔コンダクタンスを示した.道管をもつシダ植物
はワラビ1種しか同定できていないが,道管をもつことが光合成速度に寄与し
ている可能性が考えられる.