| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-290 (Poster presentation)
花の蜜は,訪花者への報酬となる糖類以外にも多様な二次代謝物を含んでいる.その一部は,動物の誘因・忌避に働くことに加え,代謝・生理・行動に影響を与えると推測されるが,その化学的な実態や生態学的機能についての知見は限定的である.本研究では,ヒルガオ科サツマイモ属植物(Ipomoea)のノアサガオ(I. indica,以下ノアサ)およびモミジバヒルガオ(I. cairica,以下モミジバ)と,それらに訪花して交尾や産卵を行う,カザリショウジョウバエ(Drosophila elegans)の相互関係に着目し,ハエが花蜜や花粉を摂食しているか,摂食により行動変容が起こるか,またどのような二次代謝物がハエの行動に影響を及ぼすかを調べた.
花蜜や花粉の摂食を確認するため,迅速性・簡便性に優れた質量分析装置PESI/MS/MSを用い,ノアサとモミジバの花蜜,花粉およびハエ胃内容物の化合物プロファイルを比較したところ,ハエが花粉および花蜜を摂食することが示された.
花蜜の摂食がハエの行動に及ぼす影響を評価するため,物体検出アルゴリズムYOLOを用いた行動トラッキングにより,花蜜摂食後のハエの行動を解析しところ,モミジバ花蜜の摂取後に口吻グルーミング行動が特異的に増加することが明らかとなった.
行動変容の原因となる植物代謝物を特定するため,PESI/MS/MSとLC/Orbitrapによる花蜜の成分分析を行い,モミジバ花蜜特異的な代謝物を推定した.さらに,当該代謝物標品を添加した糖液をハエに与えたところ,モミジバ花蜜摂取時と同様のグルーミング行動が確認された.
本研究は,Ipomoea属の花蜜に含まれる二次代謝物が,D. elegansの行動を直接的に操作する可能性を示唆した.こうした訪花者の行動変化は,訪花性や滞在時間などの昆虫の行動を制御し,ひいては植物の適応度や両者の相互作用に影響を及ぼしていると考えられた.