| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-298  (Poster presentation)

報酬出しても楽じゃない:ラン科サイハイランの近交弱勢・資源制限・種子食害の評価【A】
Evaluation of inbreeding depression, resource limitation, and seed predation in the rewarding orchid Cremastra variabilis【A】

*島田真彦, 北村俊平(石川県立大学)
*Masahiko SHIMADA, Shumpei KITAMURA(Isikawa Prefectural University)

ラン科の繁殖を制限する要因は、送粉者の訪問が低頻度なことに由来する送粉者制限によって説明されることが一般的である。しかし、報酬を提供する種では隣花受粉による近交弱勢、他にも資源制限や散布前種子食害による結果率の減少も報告されている。本研究では、金沢大学角間里山ゾーンに自生するサイハイランを対象に、これらの要因が繁殖成功に与える影響を評価した。実験では、19花序に人工授粉(他家受粉・隣花受粉)と袋掛けを行い、自然条件のコントロール66花序と結果率を比較した。これにより送粉者制限、近交弱勢、および受粉から成熟までの果実減少に基づく散布前種子食害を定量化した。また2020年から2024年に撮影された送粉者(トラマルハナバチ女王)の訪花行動の映像から、花序内訪花数を定量化し、隣花受粉のリスクを評価した。さらに、過去5年間を含めた果実調査のデータから、サイハイランのパッチの規模や花序の開花数と距離が、食害後の最終結果数に与える影響を一般化線形混合モデルにより解析した。人工授粉した19花序の平均結果率は39.4%(0~73.9%)であったのに対し、コントロール66花序では4.0%(0~29.4%)にとどまり、強い送粉者制限が認められた。他家受粉(38.6%:10.0~75.0%)と隣花受粉(43.6%:10.0~80.0%)の結果率には有意差はなく、サイハイランにおける果実段階での近交弱勢のリスクは低いことが示唆された。一方、コントロール花序ではランミモグリバエの散布前種子食害により、初期結果率4.0%から最終結果率0.8%へ低下した。これより、サイハイランは送粉者の訪問が制限されている上に、送粉に成功した場合でも散布前種子捕食によって繁殖が強く阻害されることが明らかになった。一般化線形混合モデルの解析から、サイハイランは花序数が少なく、孤立したパッチのほうが散布前種子食害を回避して繁殖成功が高まる可能性が示唆された。


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