| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-310 (Poster presentation)
動物個体群の時空間変動とその要因の解明は、その種の個体群の理解や保全に貢献する。しかし動物の多くは移動性が高く個体数把握が困難である。虫こぶ形成昆虫は多くの場合、成虫が短命で虫こぶ自体は移動性を持たないため追跡と個体数把握が容易であり、個体群動態の研究に適している。
本研究ではシキミ(Illicium anisatum)の葉上に虫こぶを形成するシキミタマバエ(Illiciomyia yukawai)に着目し、その時空間変動を駆動する要因と、その変動がタマバエおよびシキミに与える影響を検討した。大阪府箕面市の山林に自生するシキミ127個体について、2024年・2025年に虫こぶ密度を調べ、個体間で比較した。また葉上の虫こぶの分布や密度を調べ、それがタマバエの運命に与える影響を評価した。
虫こぶ密度はシキミ個体間で大きく異なり、その大小は年をまたいでもほぼ維持された。タマバエ産卵時期におけるシキミ新芽長も個体間で大きく異なり、その個体間での相対的な順位は年が変わっても維持されていた。この新芽形質が虫こぶ密度の個体間差と年次変動を駆動している可能性が示唆された。葉における虫こぶ密度が上昇してもタマバエの死亡率は上昇せず、密度依存的な死亡は確認されなかった。虫こぶの分布は葉の主脈付近に強く偏っていたが、その位置はタマバエの運命には影響を及ぼさなかった。この分布はタマバエの産卵が成立する部位が物理的に制限されていることによって生じている可能性がある。以上より、虫こぶ形成の時空間変動には、植物形質の個体差および物理的制約が大きな影響を与えているが、虫こぶの密度や形成位置はタマバエの運命に大きな影響を与えていない可能性が示唆された。現在、シキミ個体について葉緑素量の指標であるSPAD値を測定しており、虫こぶ形成がシキミ個体に及ぼす影響についても議論する。