| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-314  (Poster presentation)

潜葉虫が葉に描く軌跡の形態的多様性と形成原理を探る【A】
Exploring the morphological diversity and formation mechanisms of leaf-miner feeding paths【A】

*藤井駆陸(京大院理), 矢野恵佑(統計数理研究所), 今田弓女(京大院理)
*Kakemu FUJII(Kyoto Univ.), Keisuke YANO(ISM), Yume IMADA(Kyoto Univ.)

潜葉虫とは、幼虫期に葉の表層や内部に潜り、それを摂食しつつ成長する昆虫である。この生活様式は完全変態昆虫において繰り返し独立に進化してきた。潜葉虫の生活史、つまりある個体が孵化し、脱皮・成長し、成虫へ羽化する、または途中で死亡するといった生存・成長過程の情報は、1枚の葉に潜葉痕(mine)として記録される。潜葉痕の形態は分類群によって多様であり、その形状や寄主植物の系統が属・種判別の鍵となる場合もある。特に線状潜孔(linear mine)の形には多様なパターンが知られており、その形成には植物側の提供する資源空間の構造(葉脈配置など)と、幼虫側の系統を反映した行動や適応的な潜孔行動(天敵回避など)の両方が寄与しうる。しかし既存研究の多くは潜葉痕の特徴の記載にとどまり、この仮説を定量的に検証した例はほぼない。そこで本研究では、これを検証する基盤を構築するため、線状潜孔の形態差を定量的に評価・比較する手法を独自に開発し、それを用いて潜孔の形成原理に関する示唆を得ることを目指した。具体的には、潜葉痕の形態を定量化するために、ラフパス理論に基づく signature と呼ばれる特徴量を導出した。この指標は、潜孔の進行方向の変化や曲がり具合を数値化し、複雑な軌跡形状を統計解析可能なベクトルとして表現するものである。これにより、分類群間における形態差を統計的に検出することを可能にした。さらに、葉脈の透過率(幼虫が葉脈を越えられる確率)をパラメータとして組み込んだランダムウォークシミュレーションを行い、潜孔パターンの多様性が宿主植物側の構造だけでどの程度説明可能かを検討した。その結果、葉脈による空間的制約を考慮したモデルは、制約のない完全にランダムな移動と比べて、実際の潜葉痕により近いパターンを示した。これは、潜孔形成において宿主植物側の構造的制約が一定の役割を果たしていることを示唆する。


日本生態学会