| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-318 (Poster presentation)
一部の昆虫は、植物の遺伝子発現を操作し、種ごとに多様な形態の虫こぶを形成する。虫こぶ形成昆虫は、虫こぶの構造の複雑さや組織の防御物質によって天敵から保護されており、虫こぶではこのような防御戦略に関わる様々な遺伝子の発現に変化が生じていると考えられる。しかし、遺伝子発現レベルの研究は一部の種をモデル生物的に扱ったものが多く、近縁な複数種を用いて遺伝子発現のレベルで進化を調べた研究例はない。また、虫こぶ形成昆虫のような宿主特異性の高い昆虫の多様化においては、宿主植物の分布変遷に伴う地理的隔離が、種分化や進化を促進する可能性がある。本研究では、1種の宿主植物に異なる形態の虫こぶを形成する近縁な4種のアブラムシを対象として、虫こぶの遺伝子発現と実際の防御形質の対応を調べるとともに、アブラムシと宿主植物であるマンサクの地域系統分化の対応を調べる。これらにより、虫こぶの多様化がもたらされた進化プロセスを、遺伝子レベルと表現型レベルの双方から明らかにすることを目的とする。
まず、虫こぶ組織の遺伝子発現解析の基盤となるマンサクのゲノム配列を構築した。そして、4種の虫こぶについてRNA-seqを用いた遺伝子発現解析を行った結果、このうちの2種では、防御物質の生合成や形態形成に関わる遺伝子の発現量が他の種に比べて上昇していた。次に、防御形質を種間で比較した結果、この2種の虫こぶは、フェノール含有量が高く、内部構造が複雑であった。さらに、アブラムシとマンサクの系統解析を行った結果、両者の地域系統の分布には対応がみられた。これらの結果から、宿主植物の分布変遷に伴ってアブラムシの種分化が生じ、この過程において、虫こぶ組織の防御物質の生合成や形態形成に関わる遺伝子発現パターンの進化が生じ、これに対応してフェノール量の増加や内部構造の複雑化といった防御戦略の多様化がもたらされたと考えられる。