| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-322 (Poster presentation)
ヒグマは行動圏が広く、多種多量な液果類を利用し、種子は排泄後も発芽能力が維持されることから、液果類の長距離散布や分布域拡大・更新への貢献が期待されている。しかし、クマ類において採食イベントごとの散布距離、標高移動(垂直散布)を算出した研究はなく、散布方位を算出した研究もない。また、動物の移動は様々な要因により変動するが、移動と関連する種子散布において、変動要因とその影響を検討した例は少ない。そこで本研究は知床半島のヒグマのメス成獣に、カメラ付GPS首輪を装着し、採食イベントごとの液果類の散布距離と散布方向を推定し、それらの変動要因を探ることで知床半島のヒグマの液果類の種子散布を評価した。散布距離は平均1141mで、最大5kmを超える長距離散布が推定された。散布距離は採食月、採食地点標高、採食後の行動の構成(移動・休憩・採食などの割合)によって変動した。標高移動は平均-39mで、上下に数百mに及ぶ垂直散布が推定された。液果種によって垂直方向の散布傾向が異なり、そのパターンは植物フェノロジーを追随した単純な移動ではなかった。また、採食月や採食地点標高、気温、採食後の行動構成によっても標高移動が変化した。散布方位は北東-南西(半島軸および海岸線に沿った移動)および東-西方向(山地と海岸部を往復する横断的な移動)にピークをもつ二山形分布を示し、その傾向は採食月によって変化した。このような種子散布パターンの変化には、知床半島に特有な地形的特徴およびハイマツやサケ科魚類、堅果類など、液果以外の重要な食物資源の季節的配置が影響している可能性が示唆された。ヒグマは知床半島において広範囲の垂直移動を伴う長距離の種子散布を行う重要な種子散布者であった。その距離や方向は複数要因が複合的に作用して変化することが示唆され、森林更新や気候変動下での植物分布変化に重要な役割を果たしている可能性が示された。