| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-325 (Poster presentation)
種⼦散布は植物にとって数少ない個体として移動できる局⾯であり、個体群の維持や
⽣息域の拡⼤に重要な役割を果たしている。イチョウは中⽣代から種⼦形態が保存さ
れていることで知られ、強烈な悪臭を放つ多⾁質の種⽪外層をもつのが特徴的であ
る。しかし、その匂いの機能や種⼦散布⽣態は未解明な点が多い。そこで本研究で
は、イチョウの種⼦散布者を明らかにするとともに、種⼦の匂いの機能の解明を試み
た。
全国 6 地点のカメラトラップによる観察により、5 科 5 種もの⾷⾁⽬(タヌキ、ハク
ビシン、アナグマ、アライグマ、ツキノワグマ)による種⼦の採⾷を記録した。ま
た、齧⻭類が種⽪外層が取り除かれた種⼦を持ち去ることも分かった。さらに、発芽
実験により、多⾁部の除去は発芽に必須であり、⾷⾁⽬の動物に⾷べられ糞として排
出された種⼦が発芽することも確認した。次に、多⾁部に含まれる報酬を定量するた
め HPLC による糖分析を⾏ったところ、42.1±7.1g / 100g FW (n=5)もの⾼濃度の糖
が含まれていることが明らかになった。これはイチョウの種⼦が多くの動物にとって
栄養価の⾼い餌資源であることを⽰す 。さらに、GC-MS での分析結果をもとに作製し
た匂いの再現試薬を⽤いて野外実験を⾏ったところ、イチョウの種⼦の匂いが腐⾁⾷
性の⾷⾁⽬を選択的に誘引することが⽰唆された。誘引された⾷⾁⽬のうちテンは⼩
型でイチョウの種⼦を採⾷しないことから、⾷⾁⽬に対する誘引性は学習によらない
⽣得的な反応であることが推測された。
以上の結果から、イチョウは腐⾁⾷動物を選択的に誘引する匂いと⾼濃度の糖を含む
種⼦を有することで、さまざまな腐⾁⾷動物を広く種⼦散布者として利⽤する⽣態を
もつと考えられる。イチョウはそれぞれの時代にその地域に⽣息する腐⾁⾷動物を種
⼦散布者として利⽤してきたことで 2 億年以上変わらない種⼦をつけてきたのかもし
れない。