| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-328  (Poster presentation)

十蛾十色:花角度に対する訪花性スズメガ類の行動反応の違いは花の選好性を説明するか【A】
Do differences in hawkmoths' behavioral responses to flower orientation explain their flower preferences?【A】

*岡島紗良, 大橋一晴(筑波大学)
*Sara OKAJIMA, Kazuharu OHASHI(Tsukuba Univ.)

動物媒花の表現型多様性は、送粉者との相互作用による適応進化の産物と考えられてきた。中でも花の向きの違いは、系統的制約よりも送粉者による自然淘汰圧によって生じた進化的応答であると推察されてきた。その主要な機構として注目されてきたのが、送粉者の花の向きに対する選好性を介した自然淘汰である。送粉者の中でも、訪花性スズメガ類はホバリングしながら吸蜜するため、花の向きによって採餌の可否が左右され、花の向きに対して強い選好性をもつと考えられる。この予想が正しければ、スズメガ媒花の向きは一定方向に収斂するはずである。しかし実際のスズメガ媒花では分類群を超えた明確な収斂はみられない。この事実は送粉シンドロームと矛盾する。本研究は、スズメガ媒花の向きの多様性を理解する鍵としてスズメガ科内部の形態および行動の多様性に着目し、下位分類群間で花の向きに対する選好性が異なる可能性を検討した。
まず、スズメガの訪花記録を網羅的に収集し、花の向きとスズメガの下位分類群との対応を集計した。その結果、スズメガでは下位分類群間で花の向きに対する訪問傾向が異なることが示された。次に、オオスカシバ・セスジスズメ・ベニスズメ・ホシホウジャクを用いた室内実験により、花の角度に対する吸蜜成功率や体角度を計測した。その結果、異なる下位分類群に属する種間では、下向きの花に対する吸蜜成功率が大きく異なり、その差は体角度調節能力の違いで説明された。さらに、これら4種の形態測定を行い、種間差を規定する特徴を解析した結果、体に対して翅が小さい種ほど体角度調節能力が高いことが示された。
本研究は、スズメガの下位分類群間で花の向きに対する選好性が異なること、選好性の違いが体角度調節能力とそれに伴う吸蜜成功率の差によって説明できることを明らかにした。この結果は、送粉者機能群を無暗に一括りにせず、その内部の形態的・行動的差異に注目する重要性を示す。


日本生態学会