| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-331 (Poster presentation)
発表者はイワガニ上科の半陸生種であるクロベンケイガニの社会行動の観察を行う中で,本種が口器周辺を鉗脚で擦るような行動(グルーミング行動)を示すことに気がついた.この行動は観察中に頻繁に見られたことから,重要な意義があると考えられるため,行動実験と形態観察を行い,本行動の意義の解明を試みた.
行動実験:ベンケイガニ科のクロベンケイガニ6個体,アカテガニ6個体,モクズガニ科のアシハラガニ6個体,タカノケフサイソガニ4個体を対象に観察を行った.コントロールとして,歩脚が浸る程度に水を張った水槽に収容して行動を観察した結果,タカノケフサイソガニは全くグルーミング行動を示さず,その他の種ではいくつかの個体が稀にグルーミング行動を示すのみであった.続いて,カニ類の口器周辺に泥を付着させた後に水槽に収容した結果,全種全個体がグルーミング行動を示した.半陸生種は鰓呼吸のため,陸上にいる間は鰓室に水を保持し,口器周辺から体外に水を排出して酸素を含んだ水を鉗脚の付け根の部分より再度取り込む必要がある.本実験の結果から,グルーミング行動は水の通り道にあたる部位に付着した異物を除去するために行う行動であることが推察された.
形態観察:行動実験を行った4種に加え,ベンケイガニ科のクシテガニ,ユビアカベンケイガニ,フタバカクガニ,モクズガニ科のハマガニを対象に,グルーミング行動に使用される鉗脚の長節の形態を観察した.全ての種において口器周辺と擦り合わせる長節内面にブラシ状の剛毛列が確認されたため,この剛毛列を用いて異物を除去していることが明らかとなった.この剛毛列はモクズガニ科で1列,ベンケイガニ科で2列が確認された.スナガニ上科の中でグルーミング行動が報告されている半陸生種においても鉗脚長節に剛毛列が見られるため,この形質は陸上進出に伴い独立に獲得された可能性がある.