| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-341  (Poster presentation)

シロアリ卵と卵擬態真菌のサイズ乖離から迫る卵認識精度の個体群間変異【A】
Interpopulation variation in the accuracy of termite egg recognition inferred from size divergence between termite eggs and egg-mimicking fungi【A】

*中嶌聖朗, 高田守, 松浦健二(京都大学)
*Masaaki NAKASHIMA, Mamoru TAKATA, Kenji MATSUURA(Kyoto University)

多くの動物では高緯度ほど体サイズが大きくなる傾向(ベルクマン則)が知られ、昆虫でも類似の地理的な体サイズ傾斜が報告されている。ヤマトシロアリでも高緯度個体群において翅アリの大型化が見られ、地域ごとに異なる形質を示す。ヤマトの卵塊中には、卵認識機構を利用してワーカーからのケアを受ける卵擬態真菌ターマイトボール(以下TMB)が寄生する。本研究では、宿主サイズの地理的変異と卵認識精度の季節変動が、TMBの形質進化に与える影響を検証した。
北海道および関西の野外コロニーにおいてワーカーおよびソルジャーの体サイズを計測した結果、北海道個体群の方が有意に大型であった。さらに、卵およびTMBを採集して比較したところ、卵短径は北海道で有意に大きく、TMBも同様に大型化していた。秋季に実施した卵運搬アッセイでは、北海道(0.336 mm)と関西(0.357 mm)で選好ピークに有意差は認められず、両個体群とも卵短径に近いサイズのダミーを多く運搬した。
これらの結果から、ヤマトでは個体サイズの大型化が必ずしも大型卵の選好につながらないことが示唆された。一方、先行研究では夏季の本州個体群が約0.5 mmのダミーをより選好することが報告されており、卵認識精度には季節変動が存在すると考えられる。北海道では本州に比べ、産卵期に相当する高温期間が短い。そのため、卵認識精度が低下する期間が限られる北海道では、短い産卵期に卵塊へ運ばれることがTMBの生存にとってより重要となり、大型粒径が選好されやすい夏季条件に適応してTMBの大型化が進化した可能性がある。さらに、TMBは低温環境下で他の木材腐朽菌より有利に生育できることから、本州と比べて菌核形成コストが低下している点も、大型化を促進した要因と考えられる。


日本生態学会