| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-351 (Poster presentation)
被食者が捕食者を警戒して活動が制約される「非消費効果(NCEs)」は、被食者が直接的に捕食される消費効果以上に被食者の適応度や群集構造を左右すると試算されている。非消費効果を引き起こす要因の中でも、捕食者が生息環境に残す化学情報は物理刺激(視覚、聴覚、触覚)とは異なり環境中に残留するため、被食者に過去から現在にわたる時間的広がりを持った情報を提示すると考えられる。捕食者が残した排泄物や体表成分などの化学情報を利用して、被食者が捕食者との遭遇を避ける予防的な捕食リスク回避の研究は水系動物で発展しているが、陸上動物では検証例が少ない。この理論の普遍性を検証するために、高度な嗅覚をもつチャバネゴキブリをモデルに、捕食者痕跡による活動抑制の実証を試みた。
集合性を考慮し、3匹の成虫に各種痕跡(足跡・糞)を置いた/置かない隠れ場を選ばせる二択試験を行った。ゴキブリは調べた全6種の肉食動物の排泄物を避ける一方で、足跡については捕食者由来のものは避けたが、ゴキブリを捕食しないヒバカリ由来のものは避けなかった。ゴキブリは、量が多く検知しやすいが種特定が難しいと考えられる排泄物に対しては、捕食者の種を問わず広範に避ける一方で、微量だが種特異性が高い足跡に対しては、ゴキブリの捕食者由来の足跡だけを避けることで、逃避によるエネルギーや時間、交配・採餌機会の損失を最小化している可能性がある。特にゴキブリを捕食しないヒトの痕跡を強く避ける性質は、捕食者痕跡を避けるのと同様に、彼らが有害な動物の痕跡を避けることを強力に支持する。従来「接触走性(壁への接触を好む性質)」として至近的に説明されてきた壁沿いに移動するゴキブリの習性が、「床中央に遍在するヒトの痕跡を避けた結果」としても説明可能な点で興味深い。また、捕食者の糞の抽出物も強く避けたことから、ゴキブリが忌避する実体が化学物質であることが示唆された。