| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-364 (Poster presentation)
アリやハチなどの社会性昆虫では、繁殖個体である女王とワーカーとの間で繁殖分業が成立している。ワーカーは一般に、女王が産生する化学物質(女王物質)をシグナルとして受信すると自らの繁殖を抑制することが知られており、これは血縁選択上のワーカーにとっての利益に基づいて進化したと考えられている。この見解に基づくと、女王物質への応答は進化的文脈に依存して異なることが期待される。本研究では、社会寄生系統が有する女王物質様の化学物質に対する、宿主個体の反応を検証した。社会寄生系統はコロニー内で繁殖に特化し、宿主と遺伝的利益を共有しないため、進化的文脈の重要性を評価するのに適した系である。検証にはアミメアリ Pristomyrmex punctatusを用いた。本種には「非協力系統」と呼ばれる社会寄生系統が存在し、その形態は近縁種の女王に酷似する。実験では、非協力系統の体表から特異的に多く検出され、他種では女王物質として利用されている体表炭化水素の一種ヘプタコサン(C27H56)を、宿主である協力系統個体に28日にわたって提示し、行動や卵巣発達への影響を評価した。その結果、対照として溶媒(ヘキサン)を提示した群と比べ、ヘプタコサン群では協力系統個体の行動には有意差が見られなかったが、28日後の卵巣が有意に発達していることが明らかになった。この結果は、「女王物質」が進化的文脈に応じて異なる反応を持ちうることを示すものである。アミメアリ協力系統で観察された卵巣発達は、非協力系統の侵入による被害を軽減する効果を持つため、本研究の結果を、社会寄生系統との拮抗的共進化によって生じた協力系統個体の抵抗性の観点から議論する。