| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-366 (Poster presentation)
暗所選好性は無脊椎動物から脊椎動物までさまざまな動物種に見られ、捕食者回避などに重要な役割を果たす。暗所選好性は動物が持つ未知の環境に対する恐れや不安を反映する形質であり、多くの場合採餌活動などの広範な探索を制限する。このため、異なる捕食圧下や採餌環境下にある集団は、異なる暗所選好性を持つと予想されるが、多くの生物種で暗所選好性の近縁集団間の違いは明らかにされていない。これを解明するため、本研究では進化生物学や行動生物学のモデル生物であるイトヨ(Gasterosteus aculeatus)に着目した。北半球の寒冷地に広く分布する本種は、海洋から河川、湖沼、湧水地といった多様な淡水域へ進出し、各地で適応進化を遂げてきた。これらの集団は形態や生活史だけでなく、捕食回避行動も異なることが知られる。アラスカに生息する淡水型イトヨは天敵が接近すると海型イトヨよりも長時間の注視を行う。また、営巣中の淡水型のオスは天敵が近づくと一様に卵への保育行動を減らし、巣の防御や自身の生存を優先するのに対し、海型は保育行動を減らす個体もいれば増やす個体もいるなど、行動にばらつきが見られる。しかし、このような近縁集団がどのような暗所選好性を示すのかは明らかになっていない。そこで、本研究では、日本国内において異なる環境に生息し、異なる形態や生活史を持つ近縁集団3系統のイトヨを用いて、暗所選好性を比較した。北海道厚岸町から採集した祖先的な海型イトヨは遡河回遊性の生活史を示す。一方、岐阜県大垣市に生息し、現在は岐阜協立大学の屋外人工池で維持されている淡水型イトヨは、イトヨの中でも淡水域に進出した起源が最も古いことが知られる。さらに、湧水地のある北海道幌内川に生息する淡水型は、近年淡水域に進出した集団である。本発表では、これらの集団の暗所選好性を比較することで、新規環境への進出や淡水適応における暗所選好性の進化的役割を議論する。