| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-367 (Poster presentation)
生得的行動はしばしば定型的であまり柔軟でないものと考えられてきたが、実際には環境や行動文脈に応じて制御される。本研究では、アリにおける生得的な視覚誘導行動beacon-aimingに着目した。この行動は、昆虫一般に広く知られた、コントラストの高い垂直なランドマークに自発的に接近する行動である。まず、6種のアリについて通常の陸上条件でランドマークへの反応を調べると、調査した他の種とは異なり、クロオオアリ(Camponotus japonicus)のワーカーはbeacon-aimingを示さないことが明らかになった。しかし、クロオオアリは水面に落下した場合、遊泳あるいは歩行してランドマークへと接近した。さらに、水を含まない液体(グリセロール – 2-プロパノール)上での遊泳、乾燥した基質での逆さ歩行、強い風が下から吹き上がる環境での歩行においてもクロオオアリはbeacon-aimingを示し、弱い風が吹き上がる環境ではbeacon-aimingを示さなかった。これらのbeacon-aimingを誘発する実験操作は、アリの正常な移動あるいは姿勢に対して逆境的な制約を課すという点で共通しており、beacon-aimingが「ストレス」と関連する条件下で誘発されることを示している。さらに、連続した基質間移動(陸から水、および水から陸)の実験により、ランドマークへの選好は逆境的基質(水)への遷移に先立って徐々に現れ、逆境的でない基質(陸)に遷移した後も少なくとも数秒間持続することが明らかになった。本研究の結果は、通常条件下では現れない生得的視覚誘導行動が、ストレスに関連した一過性の内部状態に基づいた制御を通じて誘発されうることを示している。