| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-372 (Poster presentation)
哺乳類の母親にとって授乳は最もエネルギーコストの大きい行動であり,授乳をめぐって母仔の対立が生じることがある.授乳時間や母による授乳の終了・拒否は特に母仔の対立を示す指標とされている.ウマ(Equus caballus)は広範囲を移動する種であり,仔は生後間も無い頃から母親に追従する.授乳前には,仔が母親の首の下を通る行動(以下,横切り行動)がしばしば観察されている.仔が移動中の母ウマの首の下を横切ることで母は歩行を停止し,仔は吸乳を始めることがある.このことから,横切り行動は授乳の欲求を示すシグナルだと考えられており,母仔間の利害を調整している可能性がある.しかし,横切り行動に関する先行研究は記載的なものに留まり,その機能を実証した研究は把握する限りでは存在しない.本研究では「横切り行動が仔の授乳成功や母仔の対立の緩和に貢献している」という仮説を立てた.そして,首の下を通る行動によりa)授乳時間が長くなる,b)母が授乳しやすい姿勢をとる,c)母による授乳の終了が減少する,d)母による授乳の拒否が減少すると予測し,これを検証した.
2024年9月から2025年2月にかけて,宮崎県都井岬で周年放牧されているウマの母仔7組を対象に行動観察を行い,84回の授乳バウトが観察された.横切り行動の有無と授乳成立,授乳時間,母の授乳補助姿勢,授乳終了者,授乳拒否との関連を,一般化線形混合モデル(GLMM)および一般線形混合モデル(LMM)を用いて解析した.その結果,横切り行動の有無は,授乳の成立に有意に関連していた.一方で,横切り行動と授乳時間,母の授乳姿勢,母による授乳の終了および拒否の間には統計的な関連は見られず,予測a)〜d)は棄却された.以上より,横切り行動は授乳の成立に影響しているが,授乳の成功の程度とは関連していないと考えられる.