| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-374 (Poster presentation)
野生動物の社会構造は生息地内のエサ資源分布の影響を強く受けると考えられている。社会生態モデル(SEM)によれば、エサ資源が局所的に分布する場合、採食競合により攻撃交渉が頻繁に生じるため、エサ資源防衛のための血縁間の同盟などにより血縁に基づく直線的な順位関係が形成されると予測されている。また、高順位個体と親和的関係を構築することで、エサ資源へのアクセスを許容されようとすることから、多くの個体が高順位個体と社会関係を結ぶとしている。対照的に、エサ資源が広範囲に分布する場合は、平等社会となり、個体間の社会関係にも特徴がみられないと考えられる。
有蹄類では一般に生息地内のエサ資源は広範囲に分布するとされているが、SEMの予測に反し直線的な順位関係や血縁に偏った社会関係が見られる場合が少なくない。そこで、本研究では、北海道東部のニホンジカを対象に順位と個体間の近接頻度の関係を分析することで、そのような社会構造が成立する理由の解明を試みた。
シカの攻撃的交渉はエサよりも、パーソナルスペースや休息場所を巡って起きていたが、直線的な順位関係が作られていた。そして、その順位は血縁関係では決まらず、年長者が高順位となる傾向にあった。また、近接頻度を基に近接ネットワークを作成したところ、各個体の近接ネットワークの中心性と順位には有意な相関はなく、近接ネットワーク内にも明確なクラスターは確認できなかった。ただし、個体間の近接頻度はランダムではなく、血縁個体への選好性が見られた。
以上から、エサ資源が広範囲に分布する環境では、個体間に強い社会的結びつきが必要ないものの、社会的ストレス回避などのため、血縁個体など特定個体と共に行動している可能性が考えられた。また、エサ資源以外の要因でも、直線的な順位関係を形成することが示唆された。