| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-386  (Poster presentation)

九州北西部におけるホンドテンの食性および確認糞数の長期変動【A】
Long-term trends in diet and scat counts of the Japanese marten (Martes melampus) based on monthly route surveys in northwestern Kyushu【A】

*佐藤ひかる(佐賀大学), 村上絢香(佐賀大学), 栗田桃萌(佐賀大学), 安達大貢(佐賀大学), 中村頌湧(佐賀大学), 大串晴菜(佐賀大学), 荒井秋晴(九州歯科大学), 德田誠(佐賀大学)
*Hikaru SATO(Saga University), Ayaka MURAKAMI(Saga University), Tomoe KURITA(Saga University), Hiroki ADACHI(Saga University), Shoyo NAKAMURA(Saga University), Haruna OGUSHI(Saga University), Shusei ARAI(Kyushu Dental University), Makoto TOKUDA(Saga University)

ダム建設は人類による大規模な生態系改変の一例であり、森林消失や水位変動帯の形成を通じて陸生哺乳類の活動にも影響を及ぼし得る。ホンドテンは果実・昆虫・小型脊椎動物など多様な資源を季節的に利用する中型雑食性哺乳類であり、その食性は環境変化を敏感に反映する。しかし、環境改変が食性構造に与える長期的な影響を評価した研究は少ない。九州北部の嘉瀬川流域では2000年代後半に大規模なダム建設が進行し、水辺環境や植生配置が改変された。本研究では、嘉瀬川ダム周辺で得られた2004~25年の長期データと、対照区としてほとんど改変のなかった脊振山の同時期データを用い、環境改変がホンドテンに与える影響を評価した。嘉瀬川ダム及び脊振山で毎月の調査を行い、確認した糞を採集した。糞内容物は植物質と動物質に大別し、植物質は可能な限り種レベルで同定した上で主要13種を代表として扱った。動物質は哺乳類・鳥類・昆虫類・甲殻類・魚類・両生爬虫類の5区分とした。食性の季節構造は、季節別糞数の割合及び動物質割合を指標とした。また、両地点の過去データを統合し、多変量解析を用いて環境改変と食性変動・糞数変動との関連を確認した。その結果、嘉瀬川ダムでは2007–10年に総糞数の大幅な減少が生じ、特に夏季に昆虫類や水域系資源の消失が顕著であった。その後2011–12年及び2017–18年には夏季を中心とした部分的な回復がみられた。2020年代には秋季の割合が低下し、初夏〜夏の割合が増加するなど、季夏を中心とした揺らぎが総量変動の主要因となっていた。また、特定の植物種が一時的に検出されなくなるなど、植物質構成にも年次変動がみられた。一方、脊振山では期間を通じて食性構造が比較的安定しており、季節パターンや動物質割合の大きな変動は認められなかった。以上より、嘉瀬川流域におけるホンドテンの食性及び糞数変動には、ダム建設に伴う長期的な環境改変と時間的一致を示す現象の存在が示唆された。


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