| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-400 (Poster presentation)
動物の意思決定にみられる個体差は、集団内の行動多様性を生み出し、個体群動態にも影響する重要な要因である。この個体差の形成には従来の遺伝的変異と環境誘導変異に加え、発生過程で生じる「ゆらぎ」や集団内の多数派とは異なる行動、すなわち「天邪鬼行動」も関与していると考えられる。本研究では、昆虫に広くみられる光選好性における天邪鬼行動と発生ゆらぎの効果を定量するため、同一環境下で飼育したキイロショウジョウバの25単雌系統を用い、単独個体条件および集団条件で光選好性を測定した。測定には直径30mm程度の円形通路からなるT字迷路を用い、暗室と明室のいずれかを選択させ評価した。単独条件では各系統の雌雄30頭に5回連続で光選好性を測定し、個体内の選択の一貫性を評価した。集団条件では同系統50個体を同時に導入し、明暗を選択した個体数の比率から集団レベルの光選好性を算出した。その結果、単独条件では系統間で選好性の強度に有意差が認められ、同一系統内でも個体間の選好性のばらつきが認められた。この結果は、光選好性の個体差に遺伝的変異と発生ゆらぎの双方が寄与していることを示唆する。一方、集団条件では多くの系統で光選好性の強度が低下した。これは、社会的相互作用の影響を受け、一部個体が自発的に意思決定を変えたことを示唆する。以上の結果は、選好性とそれに関連する意思決定は、これら要因の総和あるいは相互作用の帰結として形成されていると考えられる。今後は、集団サイズや個体密度を段階的に操作した実験系を構築し、ゆらぎおよび天邪鬼行動に起因する個体差の多様性が、集団全体のレジリエンスや適応度にどのような役割を果たすのか、その生態的機能と意義を検証する。