| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-407 (Poster presentation)
クラゲ類には成体から幼体へと逆発生する種が存在し、その代表例がベニクラゲ類(Turritopsis spp.)である。近年ではその特異な生活環が注目され、ベニクラゲ類の再生や修復に関わる遺伝子の研究が広く進められている。一方で、彼らの生態については未解明な点が多くある。本研究では、ベニクラゲ類の一種であり神奈川県の葉山港で夏季に採集可能な「ニホンベニクラゲ(Turritopsis sp.)」を対象に、育成実験、分子系統解析、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、逆発生能力を持つ本種の生態的特徴の解明を目的とした。
葉山港にてニホンベニクラゲの成体(メデューサ)を採集し、その出現傾向に関するデータを記録した。入手した個体を育成用と実験用に分け、前者はプラスチックシャーレ上にて6通りの水温条件下で飼育し、後者は凍結や前固定等の必要な処置を施したうえでそれぞれの実験日まで保存した。凍結保存しておいた個体は後にそれらを試料として16S rRNA遺伝解析を行い、Turritopsis属内における葉山産ニホンベニクラゲの系統的な位置を割り出した。前固定のうえ保存しておいた個体は、後固定、脱水、凍結乾燥の順で処理を行い、SEMで観察した。SEM観察には、他種のクラゲも比較対象として用いた。
育成実験において水温が常時15 ℃の条件下でのみ逆発生の初動に遅延が見られたことから、25 ℃程度の水温下に一定時間以上置くことが逆発生の誘導条件に関わる可能性が示唆された。分子系統解析では、葉山産個体が「ニホンベニクラゲの属するクレード」と「チチュウカイベニクラゲ(Turritopsis dohrnii)の属するクレード」の双方に含まれる結果となり、チチュウカイベニクラゲの分布海域北上仮説を支持する結果となった。SEM観察では、微細構造上における同系統他種のクラゲとの相違性・相同性を明確に見出すことができた。