| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-410  (Poster presentation)

イルカの胸ビレの部分的欠損が流体力に及ぼす影響【A】
Effects of partial flipper loss on hydrodynamic forces in dolphins【A】

*三岡夏美(東京農業大学), 岡村太路(名古屋大学), 西村双葉(神奈川県博), 菊地デイル万次郎(東京農業大学)
*Natsumi MITSUOKA(Tokyo Univ. of Agri), Taro OKAMURA(Nagoya Univ.), Futaba NISHIMURA(Kanagawa Pref. Mus. Nat. Hist.), Dale M. KIKUCHI(Tokyo Univ. of Agri)

 水棲脊椎動物における遊泳能力は、制御面であるヒレの形状に大きく依存する。鯨類の胸ビレは、揚力を利用して遊泳時の姿勢安定性を保つとともに、ブレーキングや旋回など様々な水中運動を制御すると考えられている。一方で、動物のヒレは捕食からの攻撃や疾病などの生物学的要因、ならびに船舶衝突や漁網絡まりといった人為的要因により形状変化を被る。このようなヒレの形状変化は、水の流れを変え、その流体性能に影響を及ぼす可能性がある。
 本研究では、漂着したスジイルカの胸ビレ後縁に確認された外傷に着目した。外傷のあるヒレと、反対側の外傷のないヒレの三次元形状を取得し、水槽実験にて、その流体力を比較した。ヒレのスキャンデータからCADソフトを用いて、断面が対称翼となるような表面が滑らかなモデルを作成した。作成した各モデルを3Dプリンタで造形し、回流水槽内に設置することで、迎角を0–90°まで変化させた際の揚力と抗力を測定した。さらに、損傷位置が流体力に与える影響を評価するため、平面形面積およびスパン方向位置を一致させた欠損を前縁および後縁に模擬的に付与したモデルでも実験を行った。
 外傷のない胸ビレに対し、外傷のある胸ビレの平面形面積は13%減少していた。実験の結果、外傷のある胸ビレは最大揚力が30%、最大抗力が27%、最大揚抗比は11%減少した。面積減少を考慮した最大揚力係数においても低下が認められたことから、性能の低下は欠損による面積の減少だけではなく、形状変化も要因の一つと考えられる。また、損傷位置による影響を比較したところ、前縁欠損モデルは後縁欠損モデルに比べて最大揚抗比が23%低かった。以上の結果より、胸ビレの外傷は旋回時の揚力生成やブレーキング時の抗力生成といった流体性能を低下させ、その機動性に影響を及ぼすことが明らかになった。そして、その影響は損傷面積・位置・形状により異なることも示唆された。


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