| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-416 (Poster presentation)
着床遅延(胚休眠)は、交尾後、着床前に受精卵の発生が一定期間ほぼ停止し、着床が遅れる現象である。交尾から出産までの期間を制御することで、最適な環境・条件下での出産を可能にする。ヒグマは一般的に晩春から初夏にかけ交尾期があり、約半年の着床遅延期間ののち、冬期に着床・出産する。我々はこれまでの研究で、妊娠ヒグマ5個体から定期的に採取した末梢血を、発情期、早期着床遅延期、後期着床遅延期、着床後の4群間に分けトランスクリプトーム比較解析を実施した。その結果、特に後期着床遅延期に複数の免疫関連アイソフォームとパスウェイで有意な発現低下傾向がみられた。以上から「ヒグマ母体は着床遅延期に受精卵に対する免疫寛容状態にある」という仮説をたてた。本研究では、妊娠個体でみられた末梢血での発現変動が妊娠特異的であるかを検証するため、交尾していないが排卵し黄体機能が維持されている偽妊娠個体3頭を追加し、繁殖ステージ間及び各繁殖ステージでの妊娠・偽妊娠個体間の末梢血トランスクリプトーム比較解析を実施した。その結果、妊娠・偽妊娠個体間で有為な発現変動を示したアイソフォーム数は、早期着床遅延期に27個、後期着床遅延期に20個、着床後に15個であった。遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)では、妊娠個体と同様に、偽妊娠個体においても後期着床遅延期に複数の免疫関連パスウェイでの発現低下がみられた。妊娠・偽妊娠個体間のGSEAでは、後期着床遅延期・着床後に有意な差異を示したパスウェイはなかった。以上から、妊娠・偽妊娠個体間では末梢血トランスクリプトームの変動パターンが類似しており、末梢血の遺伝子発現制御には受精卵の有無ではなくより高次の要因が関係していることが示唆された。その要因が黄体機能に依存するものなのか、または季節的な外的要因によるものかを検証するには、今後オス個体や未排卵個体との比較が必要である。