| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-418 (Poster presentation)
コケゴカイ(環形動物門:ゴカイ科)は、北海道から沖縄まで分布し記録地点の多い日本の干潟の代表種であるが、その生態には不明な部分が多い。先行研究で九州における生活史が調べられており、本種の寿命は1年であると示されているが、東北地方や北海道では個体サイズが大きく、寿命が異なる可能性も考えられる。また、九州における性成熟過程では本種はゴカイ科多毛類で一般的に見られる生殖群泳を行わないことが示唆されていたが、岩手県において生殖変態個体が採集されたことから、本種が生殖時に遊泳を行う可能性が浮かび上がった。そこで、本研究では、本種の生活史および繁殖生態の解明を目的として、宮城県松島湾の櫃ヶ浦干潟において個体群動態と繁殖行動の調査を行った。
2024年1月~2025年10月の期間に個体群動態の調査を行った結果、2024年8月および2025年9月に年1回の新規コホートの加入がみられた。全ての月で2つまたは3つのコホートが同時に認められたことから、寿命は最大で2年であることが示唆された。ゴカイ科の多毛類は生涯一回産卵性であり、着底から1年目と2年目のコホートの両方の個体数密度が6月ごろから9月ごろにかけて減少傾向にあることから、この時期が本種の繁殖期であり、同時に2つのコホートが繁殖に参加していることが考えられた。2025年7月22日~8月24日には、中潮から大潮の時期の計5日間で本種の生殖変態個体による群泳が観察され、生殖群泳が23時から4時までの夜間満潮前後に発生し、最大で約2時間継続することが示された。
以上の結果から、本種は夏期に新規コホートが加入し、1年または2年かけて成熟に至った個体が夏に繁殖期を迎え、7~8月をピークとして生殖群泳を行った後に死亡するという生活史をもつと考えられた。本種の繁殖生態は本種が1940年に国内から初めて記録されて以降不明であったが、本研究により夏の夜間に生殖群泳を行うことが初めて明らかとなった。