| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-420 (Poster presentation)
ミナミハンドウイルカのオス同士はメスとの交尾機会を巡って協力関係を形成する.本種は基本的に一産一仔であり,一度の協力によって得られる直接的な利益(繁殖成功)はオスの間で分割できない.そのため,協力関係の維持には血縁選択による間接的な利益や,将来的な協力行為のお返しによる互恵的な利益が重要な役割を果たすと予想される.これらの仮説が正しい場合,協力関係は血縁個体や,協力行為のお返しが期待できる長期的な社会関係を有する個体の間で形成されると考えられる.本研究の目的は,御蔵島に生息するミナミハンドウイルカの集団を対象として協力関係の形成における血縁,年齢,および社会関係の履歴の影響を明らかにし,協力関係の維持に関する仮説を評価することである.水中観察を用いて収集された長期個体識別データより,協力関係(形成/非形成)を応答変数,血縁係数,年齢差,および過去に同じ群れで発見された同伴頻度(同伴履歴)の3つを説明変数とする一般化線形モデルを構築した.その結果,ΔAICが2以下のモデルは3つ得られ,いずれのモデルも年齢差と同伴履歴を含んだモデルであった.全ての説明変数を含むモデルにおいて,年齢差は有意な負の効果,同伴履歴は有意な正の効果を示した一方,血縁係数は有意な効果を示さなかった.これらの結果より,本集団のオスは血縁個体に偏って協力しているわけではなく,年齢が近い個体,および昔から付き合いのある個体と協力関係を形成していることが示唆された.御蔵島集団における協力関係の維持には,血縁選択ではなく,生活史段階の類似性や,協力行為のお返しが期待できる長期的な社会関係が,中心的な役割を果たしていると考えられる.