| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-424  (Poster presentation)

ヒメキアリにおける孵化しない卵の産生・貯蔵パターンから探るその意義【A】
Functions of non-developing eggs in the ant, Plagiolepis flavescens: Insights from their production and storage patterns【A】

*川本高司, 井戸川直人, 岡田泰和(名古屋大学)
*Koshi KAWAMOTO, Naoto IDOGAWA, Yasukazu OKADA(Nagoya Univ.)

社会性昆虫であるアリはコロニーを形成し、そのメンバー間で栄養交換を行う。その主要な経路は、口移しや固形餌の直接の受け渡しだが、一部の種は「栄養卵」という孵化しない、食料用の卵を授受することが知られている。栄養卵はその他の方法と比較して時間や産生コストがかかると考えられ、その利点は明確ではない。また、多くの種では栄養卵産卵の有無やその詳細な生態が未解明であり、栄養卵の意義や機能について明らかにした研究も限られている。我々はヒメキアリ(Plagiolepis flavescens)が栄養交換に口移しや固形餌の受け渡しだけでなく、栄養卵も用いることを発見した。この栄養卵は主にワーカーによって産卵され、女王と幼虫によって摂食される。既知の栄養卵を産むアリと比較して、ヒメキアリは、①栄養卵以外の多様な給餌様式を採用しており、コロニー内の栄養分配に対する栄養卵の量的な寄与は小さい、②多くの種において栄養卵の卵殻は薄く、すぐ他個体に消費される傾向があるが、ヒメキアリの栄養卵は卵殻が厚く、巣内で長期間保存されるという特徴がみられた。これらの結果をもとに、本種の栄養卵は「保存食」としてコロニーの餌需要・供給のバランスを緩衝する機能があると推測し、複数のコロニー飼育実験を行うことで検証を試みた。幼虫数を操作して需要を変化させた実験では、巣内の貯蔵栄養卵数は幼虫の存在によって減少した。一方で、餌供給と貯蔵栄養卵を減らした実験では幼虫の成長速度は低下したが、このコロニーに多くの栄養卵を与えても成長速度に改善が見られなかった。この実験から、栄養卵は幼虫の個体数に応じて消費・貯蔵されるが、幼虫の成長を促進する効果は小さい可能性を示している。また、並行してコロニーのメンバー構成や栄養卵数の動態を一年以上追跡した。この観察においても幼虫の成長期に貯蔵栄養卵数が減少していたため、コロニー飼育実験の結果を支持するデータが得られた。


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