| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-428  (Poster presentation)

クシヒゲハイイロヒメシャクの生活史および塩生植物シチメンソウの立ち枯れとの関連【A】
Life history of Antilycauges pinguis and its relationship with dieback of the halophyte Suaeda japonica【A】

*鐘ケ江葵(佐賀大学), 矢野文士(鹿児島連大), 大場裕太郎(佐賀大学), 徳田誠(佐賀大学, 鹿児島連大)
*Aoi KANEGAE(Saga Univ.), Humito YANO(Kagoshima Univ.), Yutaro OBA(Saga Univ.), Makoto TOKUDA(Saga Univ., Kagoshima Univ.)

陸地面積の約10%を占める湿地は、特殊な環境であるがゆえに独自の生態系が維持され、生物多様性の基盤として重要である。しかし現在、湿地環境は世界的に急速に消失しており、その減少速度は森林の約3倍とも推定されている。このため、湿地生態系の多様性の理解と保全は急務となっている。佐賀県南部の東よか干潟は、有明海固有種を含む希少な動植物の生息地であり、環境省・絶滅危惧Ⅱ類に指定されている塩生植物シチメンソウの日本最大の群生地でもある。同地では、2018年に本種の大規模な立ち枯れ被害が発生し、その後も部分的な被害が継続しているが、その原因は未解明である。これまでの調査から、立ち枯れの初期症状として花枝の先端が黒く枯れること(以下、黒枯れ)、黒枯れ部位には食害痕が見られること、立ち枯れ率が高い場所ではクシヒゲハイイロヒメシャク(以下、ヒメシャク)の幼虫が多く見られることなどが判明している。本研究では、ヒメシャクの生活史と、幼虫による食害がシチメンソウの立ち枯れとどのように関連するかを明らかにするため、調査と実験を行った。干潟での捕獲調査・見取り調査およびシチメンソウの定期観察の結果、ヒメシャクの発生ピークは年2回であり、区画ごとの枯死株の増加率と幼虫の生息数には正の相関が認められた。また、幼虫放飼実験では、放飼した株のすべてで黒枯れ症状が発生し、無放飼株では黒枯れが確認されなかった。黒枯れがすべての枝で発生した株では、最終的に立ち枯れが観察された。さらに、株に人為的な傷を付ける実験でも同様に黒枯れが生じた。加えて、塩水を用いた水没実験では、ヒメシャク幼虫は24時間以上の水没にも耐えることが確認された。以上の結果より、ヒメシャク幼虫は干潟において年2化で発生し、潮間帯の浸水への高い耐性を有すること、幼虫の食害や物理的損傷により黒枯れが誘導され、黒枯れ枝率が高い株が立ち枯れることが示唆された。


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