| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-441 (Poster presentation)
アオウミガメ(Chelonia mydas)は砂浜で孵化後、速やかに砂浜から浅海域を脱出し、外洋で数年間成長したのちに浅海域の採餌場へ加入する。幼体は海流によって受動的に移動するだけでなく、幼体自身による積極的な遊泳が移動分散経路に影響を及ぼすことが知られている。特にアオウミガメは外温動物であるため、好適な温度を指向する遊泳が積極的な遊泳を規定している可能性があるが、外洋域におけるウミガメ幼体の行動についての知見は不足している。そこで本研究は、アオウミガメ幼体の選好温度を実験的に調べ、得られた結果を海流データを用いた粒子追跡法による移動分散シミュレーションに組み込んだ。これにより、北太平洋西部における代表的な産卵地である小笠原諸島父島を脱出したアオウミガメ幼体の移動分散経路を予測し、好適な温度環境を指向する遊泳によってどのように移動分散経路が影響を受けるかを調べた。温度選好性実験では、幼体(平均(±SD)直甲長9.54±0.44 cm)にボタン型温度ロガーを装着し、温度勾配(約20°C–30°C)を保った実験水槽内を自由に遊泳させ、経験水温を記録した。その結果、水温が26°Cを下回ると顕著に選好されにくくなることがわかった。さらに、温度選好性実験の結果に基づいて好適な温度環境を指向する遊泳シナリオを設定し、これを組み込んで移動分散に関するシミュレーションを行った。その結果、海流による受動的な移動のみを考慮した場合に比べ、北太平洋西部から北太平洋中央部へ移動する割合がやや低くなると予測された。温度選好性を考慮した場合の移動分散経路は、受動的な移動のみによるものと比較して、遺伝的な出生地推定などによって明らかになっている移動分散パターンとより整合的であると考えられ、この海域におけるアオウミガメ幼体の移動分散に対する温度選好性の影響が示唆された。