| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-442 (Poster presentation)
多くの協同繁殖する動物では、分散遅延によって出生地にとどまった子がヘルパーになることで血縁個体からなるグループが形成される。一方、非血縁個体からなる共同的一妻多夫では、分散遅延とは異なる仕組みでグループが形成・維持されると考えられる。本婚姻形態の成立・維持機構の解明には、分散、年齢、成長など、個体ごとの生活史戦略の理解が不可欠であるが、研究例はほとんどない。本研究では、魚類で唯一、共同的一妻多夫で繁殖することが知られるシクリッドJulidochromis ornatus(オルナータス)に着目した。本種における野外での個体追跡と耳石による年齢推定を行い、年齢や成長と性別、体長、社会的地位との関係を調べた。
年齢推定の結果、本種は体長10cm程度にもかかわらず最長20歳、繁殖開始は2歳であることが示唆された。社会的地位は体長によって厳格に決まり(雌>α雄>β雄)、サイズ同類交配となっていた。しかし、年齢においては必ずしも体長を反映せず、共同的一妻二夫のα雄が雌よりも高齢な場合や、β雄がα雄より高齢な場合も少なくなかった。また、各社会的地位の成長曲線を予測した結果、雌の成長が最も速く、次いで中型のα雄であり、小型のβ雄は著しく成長が停滞していた。さらに複数年にわたる個体追跡の結果、地位の変化は少なく、地位ごとに個体の移出入が起こっていた。一方、例数は少ないものの、β雄からα雄へ地位が上昇した個体は成長率が増加し、逆に地位が下降した個体の成長率は減少した。
以上より、オルナータスの共同的一妻多夫の成立には、年齢よりも体長が重要であることが示された。また、地位に依存した可塑的な成長制御は、優位個体が地位を維持するための成長加速や、劣位個体が巣からの追放を回避するための成長抑制であると考えられた。本研究は、非血縁個体の移出入によって形成される複雑な社会構造が、個体の柔軟な生活史戦略によって維持されていることを示唆している。