| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-447 (Poster presentation)
日本の冷温帯落葉広葉樹林(以下、ブナ帯)は、温暖化に伴う構成樹種の生育適地減少などの危機に晒されており、そこに生息する生物にも影響が及ぶ可能性がある。コウチュウ目クワガタムシ科のルリクワガタ属は主にブナ帯に生息し、ブナ科樹木に依存した生活環を持つ。日本産ルリクワガタ属は多くの種が都道府県か環境省のレッドリストに登録されるなど、保全の必要性が高まっており、保全の基礎となる好適環境に関する定量的な知見が求められる。ルリクワガタ属のメス成虫は産卵時に材表面に産卵マークと呼ばれる溝を刻む性質を持つが、この産卵マークを指標として用いることで、非侵襲的に好適環境を推定できる。そこで、本研究では、産卵マークを指標として、ルリクワガタ属のニシコルリクワガタの産卵する材の好みと、林分レベルの生息環境の好みを明らかにすることを目的とした。
2025年9月~11月に、京都大学芦生研究林のブナ帯に25m×25mのプロットを15個設置し、その中でニシコルリクワガタの産卵マークがある材、産卵マークがない材、植生のデータを取得した。材については、長さ・直径・腐朽度・樹皮の割合・産卵マーク数・樹種を記録した。植生については、胸高直径30cm以上の樹木の樹種を記録した。プロット内の合計マーク数を応答変数としたプロット単位のGLMや、材のマーク数を応答変数としたゼロ過剰GLMMで解析を行った。
解析の結果、産卵する材の好みについては、腐朽が進んで樹皮が剥離した細いブナ材を選好していることが明らかになった。生息環境の好みについては、ブナが優占する林分ほど材ごとのマーク数や林分ごとの合計マーク数が増えることが明らかになった。本研究により、ニシコルリクワガタのブナに強く依存する生態が定量的に確かめられ、ブナが優占する林分が保全上重要であることが示された。この知見は、ニシコルリクワガタが含まれる、生態が似通ったコルリクワガタ種群の他種にも適用できると考えられる。